中部
ほうとう 山梨
うどんよりも幅広の手打ち麺として有名な、甲州の「ほうとう」。武田信玄が野戦食として用いたとされることから、「信玄ほうとう」と呼ばれることもあります。
ほうとうが通常のうどんと大きく異なるのは、打つときに塩を使わない点と、麺はを生のまま直接鍋に入れて煮込む点です。打つときに塩を加えないと、グルテンの形成がゆるやかになり、もちもちした食感になります。更に、煮込むことで麺のでんぷんが溶け出して、汁にもとろみがついてきます。
「うまいもんだよ、かぼちゃのほうとう」という言葉は、物事がうまく運んだときに口にする、甲州ならではの合いの手のようなものですが、その言葉のとおり、ほうとうの具で人気が高いのはかぼちゃです。とろっとした少し塩気のあるみそ仕立ての汁に、箸をつければほろっとくずれるかぼちゃの甘味。具材の旨味をたっぷり吸い込んだもっちり麺をすすったら、複雑な味わいが口中に広がります。
具材は、鶏肉、豚肉、魚介類、さといも、じゃがいも、さつまいも、白菜、いんげん、油揚げなど…「カレーほうとう」や「バターほうとう」なども人気のようです。
吉田のうどん 富士吉田
山梨県の南東部、富士山の北麓に位置する富士吉田市の名物に、多くのうどんファンをうならせる「吉田のうどん」があります。
吉田のうどんの特徴といえば、まずは麺。太く角張った麺は、かなり固め。初めて食べる人は、その歯ごたえに驚くことも少なくないとか。しかし、富士山麓の湧水で仕込んだ手打ち麺は、かめばかむほどに小麦粉の旨味が口中に広がってきます。
かつおだしをベースに、しょうゆかみそ、あるいはしょうゆとみその両方を使用した風味豊かなつゆ。具の定番は、ねぎや油揚げのほかに、ゆでたキャベツ。肉うどんの場合は、味付けをした馬肉を使用するのもユニークな点です。また、「すりだね」と呼ばれる、山椒や唐辛子、ごまなどを練った薬味が人気です。かなり辛いので、入れすぎには注意が必要です。
おやき 長野
信州の郷土料理と言えば「おやき」。小麦粉に水を加えて練った生地に、地元の野菜など、思い思いの餡をたっぷり包んで、焼いたり蒸したりしたものです。生地にはそば粉を混ぜることもあり、山間部が多く寒冷なため米の収穫量が少なかった信州ならではの、小麦粉やそば粉を使った粉料理です。
昔は囲炉裏端の灰の中に埋めて、こんがりと焼きあげ、食べない分は端に置いておいて、小腹がすいたら掘り起こして食べたりしたそうです。主食・副食・間食、そしてお盆などの行事でも食べられます。信州で売られているおやきの餡は、定番の野沢菜や切干大根のほかに、かぼちゃ、なす、おから、あずきあん、キムチ、えびやほたてのような魚介類、特産品のりんご、チーズなど、バリエーションも豊富です。野菜餡は炒めて包むことが多く、ごまみそなどの味付けはなかなか野趣あふれるもの。できたてのカリッとした食感、香ばしさ、そして餡のふっくら感がおやきの持ち味。お土産など冷たいものは、食べる前にレンジにかけるかオーブンで軽く焼いて、アツアツをいただきましょう。
にらせんべい 長野
長野市や松本市は、世帯当たりの小麦粉の消費量が多い都市として知られています。考えてみると「おやき」や「ほうとう」など、信州には小麦粉を使用した郷土料理が豊富です。「にらせんべい」もその一つ。かつては農繁期の休憩時や、子どものおやつなどとしてよく食べられました。「にらせんべい」の作り方は、水で溶いた小麦粉に刻んだにらをどっさり混ぜ込んでフライパンで薄く焼くだけ。せんべいというよりは、お好み焼きや韓国のチヂミに近いです。生地に味付けをする場合と、焼きあげた後に味付けする場合、その両方の場合とがあります。味付けは家庭によって異なり、しょうゆやソースで食べることもありますが、みそ味や砂糖しょうゆなどで甘めに仕上げるのは信州ならでは。にらではなく、なすを具にした「なすせんべい」も人気です。
ローメン 伊那
「ローメン」は、一度蒸して乾燥させた太い中華麺を戻して、マトンなどの肉や、キャベツなどの野菜とともに煮込んだものです。元々は昭和30年ごろ、ある中華料理店のご主人が「炒肉麺(チャーローメン)」として考案したもので、その後、ラーメン人気にあやかって「ローメン」と呼ぶようになったとか。蒸した乾麺を戻して煮るという独特の食べ方は、冷蔵庫がなかった時代に麺を保存するための知恵から生まれたと言います。
ローメンは、しょうゆ味のスープが少し入るタイプや全く入らないタイプ、焼きそばのように炒めたタイプ(ソース味)に大別され、お店によって味付けや具も多種多様です。お好みで、唐辛子、すりおろしにんにく、酢、ごま油、ソースなどを加えて「自分流」の味でいただきます。
大門そうめん 富山
「大門(おおかど)そうめん」は、日本髪の「まるまげ」を結ったような独特の形をしています。この形状は、半乾きのそうめんを手でくるくると巻き、日焼けを防ぐ風通しの良い包装紙に包んで作る製法によるもので、「まるまげそうめん」と呼ばれることもあるそうです。丸いかたまりを半分に割ってゆでれば、ちょうど良い長さになります。
大門そうめんの歴史は古く、幕末の嘉永元年(1848年)、大門の中島次兵衛という人が能登におもむき、その製法を習得してきたのが始まりだそうです。当初は農家の冬季の副業として始まりましたが、次第に評判を呼び、全国にその名が知られるようになりました。庄川の流水を使い、鉢伏山(はちぶせやま)から吹き下ろす寒風でさらされた手延べ麺は、コシのある歯ざわりとなめらかなのどごしが楽しめると評判です。
富士宮焼きそば 富士宮
昭和の初めごろ、富士山への登山客が絶えず、浅間大社を中心に賑わいをみせていた静岡県富士宮市には、手頃な価格でお好み焼きを出してくれる「洋食屋」が数多くありました。戦後になって、中国で味わった麺類を再現し、この洋食屋で売り出したのが、「富士宮焼きそば」のルーツとされているようです。
富士宮市内のお店で提供される焼きそばが、普通の焼きそばと少し違う点に目を付けた市民有志が、町おこしの一環として「富士宮焼きそば学会」を結成。これがマスコミの注目を浴び、「富士宮焼きそば」の名が全国に広まっていくことになります。
その特徴は、まずはコシのある麺。通常の麺は、小麦粉を水でこねた麺を蒸した後、ゆでて作りますが、富士宮焼きそばは蒸した後、ゆでずに冷やし、麺の表面を油でコーティングします。元々は、冷蔵庫がなかった時代、水分を少なくして日持ちを良くしようという知恵だったそうですが、この製法が独特のコシを生み出すことになります。麺の固さの調整は、ラードで麺を炒めるとき、水加減をして行います。
具には「肉かす」と呼ばれる、ラードを絞った後の肉が加わり、かつお節ではなく、いわしなどの削り粉をふりかけるのも特徴的。水やキャベツ、トッピングに地元の食材を活用したりと、お店によってアレンジはさまざまです。
浜松餃子 浜松
「浜松餃子」の特徴は、まずは見た目。大皿に円形に盛られ、その中央にゆでたもやしがのっかっている点ですが、これには理由があります。「浜松餃子」は戦後の屋台を発祥としますが、そのころは鉄板はなく、フライパンで餃子を焼いていました。丸く並べて焼いた餃子をそのままお皿に移したスタイルが今に継承されているのです。丸く並べると中央部がぽっかり空いてしまうため、ゆでたもやしをのせて見た目をとり繕ったのだそうです。このもやしが箸休めに最適で、浜松では自宅で餃子を作るときにももやしを欠かさない家庭が多いとか。
味の特徴は、多めのキャベツからじゅわっとにじみ出る甘味と、豚肉のコク。元々、浜松市はキャベツの産地で、また、養豚業もさかんだったので、こうした味が引き継がれているのです。ちなみに、宇都宮は白菜やにらが特産なので、それらを具にすることが多いようです。
きしめん 名古屋
名古屋では、うどん屋にも、そば屋にも、だいたいメニューに「きしめん」が載っています。油揚げ、かまぼこ、ほうれんそう、そして花かつおがこんもりとのるきしめんは、かつお節ベースのだしがよくきいていて、平たい麺のなめらかな口当たりが特徴です。
この平たい麺には、ゆでる時間が短くて済む、だしがよく染み込むなどの利点がありますが、いつごろから存在するのかは定かではありません。関東では江戸時代から、きしめんのような平打ち麺を「ひもかわ(紐革)」と呼んでいたようで、これは「芋川」(現在の愛知県刈谷市)の名物うどんが転じたものだという説があります。また、「きしめん」の語源についてですが、雉(きじ)の肉を入れた「雉麺」がなまったとか、紀州藩が尾張藩に進呈した「紀州麺」が転化したとか、中国の「棊子麺(きしめん)」(棊子は碁石のこと)をルーツとするなど諸説あり、はっきりとしたことは分かっていません。
イタリアンスパゲティ 名古屋
名古屋のスパゲティと言えば「あんかけスパゲティ」が有名ですが、「イタリアンスパゲティ」という名古屋めし(名古屋周辺を発祥とする食べ物の総称)があるのをご存知でしょうか?
ウインナーや玉ねぎ、ピーマンなどと一緒にトマトケチャップでからめたスパゲティを「ナポリタン」と言いますが、名古屋のイタリアンスパゲティは、この「ナポリタン」がステーキ用の鉄板の上でジュージュー音を立てていて、その鉄板に溶き卵が流し込まれています。昔ながらの喫茶店でよく見かけるメニューで、具は赤いウインナーが定番。粉チーズをたっぷりかけたら、ケチャップ麺をほどよくか固まった卵とからめながらいただきます。
元々は、ある喫茶店のご主人が60年代にイタリア旅行をした際に、お皿のスパゲティがすぐに冷えてしまったのをヒントに編み出したものだとか。名称については、「鉄板スパ」→「板スパ」→「イタリアンスパ」と転じたという説もあるようですが、イタリアンやナポリタンという名前のパスタは、本場イタリアにはないメニューです。
みそ煮込みうどん 名古屋
一人前用土鍋のふたをあけると、八丁みそがベースのレンガ色をしたおつゆがグツグツたぎっています。ふたにうどんを取り分けて、ふうふう冷ましながら食べるのが名古屋流の食べ方。土鍋のふたには、空気穴がないので汁がこぼれる心配もありません。
みそカツ、みそ田楽(みそおでん)など、名古屋にはみそを使った料理が数多くありますが、その代表格が「みそ煮込みうどん」です。すいとんやほうとうと同じく、塩を加えないで、小麦粉と水だけで打った麺は生のまま、かつお節などのだしで煮込み、赤みそベースの味付けをします。生のまま煮込むと、みその塩分で小麦粉がたんぱく変性をおこし、加熱することで熱凝固をするため、あの独特な歯ざわりが生まれます。これが、うどんをゆでてから煮る「鍋焼きうどん」との大きな違いです。また、鍋焼きが冬によく食べられるのとは異なり、名古屋では煮込みは一年を通じてよく食べられています。具には、ねぎ、油揚げ、鶏肉、かまぼこ、干ししいたけ、そして月見卵などが定番。汁が残ったらご飯を入れて、おじやにするのもおすすめです。
あんかけスパゲティ 名古屋
「あんかけスパゲティ」は、1960年代、ミートソースのスパゲティを名古屋の人たちの好みに合うように改良し、開発されたものだと言われています。
「あんかけ」と言っても、中華風や和風のあんではなく、裏ごしした肉や野菜、そしてトマト味がベースの洋風ソースに、片栗粉でとろみをつけたものです。ただし、大量のこしょうを加えた辛いソースであることが多く、クセになる味付けです。スパゲティの麺は、2mmを超える極太であることが多く、固めにゆであげ、スープにからめる直前に、ラードなどの油で炒めるので、こってりしています。具は、赤いウインナー、玉ねぎ、ピーマンなどが一般的ですが、豚肉を炒めて卵にからめたもの(ピカタ)や、ベーコンとキャベツのソテーなどメニューは豊富で、そのうえ、ミートボールや目玉焼きなど、自由に選んでトッピングできるのも魅力の一つです。
台湾ラーメン 名古屋
名古屋のラーメン店や中華料理店では、「台湾ラーメン」というメニューをよく見かけます。赤いスープに浮かぶのは、たっぷりのひき肉とにらなどの野菜。一緒に炒めた真っ赤な唐辛子が辛さをプラスします。この辛さと、後からやってくるスープの旨味がやみつきになって、しばらくするとまた食べたくなるのだとか。
名古屋の名物なのに、なぜ台湾ラーメンなのかというと、台湾ラーメンは1970年代に名古屋市の、ある台湾料理店で従業員のまかない用につくられたのが始まりで、これが常連の間に広まっていったのですが、このネーミングは、料理店のご主人が台湾出身だったからだそうです。台湾には、これと同じラーメンはないそうで、正真正銘、名古屋のオリジナルです。
1980年代後半に訪れた「激辛ブーム」で脚光を浴びたのをきっかけに、台湾ラーメンを看板に掲げるお店も増えていき、濃い味好きと言われる名古屋の人たちの間で人気が定着していきました。
小倉トースト 名古屋
名古屋をはじめ、岐阜などの中京地方で名物となっているのが、コーヒーにトースト、ゆで卵がつく喫茶店のモーニングサービス。
そんな中京地方の喫茶店で人気なのが、こんがりと焼いたトーストにバターかマーガリンを塗って、その上にどっさりとつぶあんをのせた「小倉トースト」。サンドしたものは「小倉サンド」とも言います。
小倉トーストは、つぶあんの甘味に加え、バターの塩味がよくきいていて、このバランスが人気の理由です。缶入りのあんこを使えば簡単に作れるので、家庭で食べる方も多いようです。
えびフライ 名古屋
「えびフライ」と言えば、名古屋というイメージがありますが、そのきっかけはタレントのタモリさんのギャグ「エビフリャ~」。タモリさんが名古屋弁をまねたギャグをテレビやラジオで連発し、ちょっとしたブームになったことがありました。名古屋の人はえびフライのことを「エビフリャ~」とは言わないそうですが、名古屋の飲食店の多くがえびフライに注目し、やがてえびフライが名古屋名物の一つになったというのが有力な説のようです。
小麦粉、溶き卵、パン粉の衣でサクッと揚げるえびフライ。名古屋では、タルタルソースやトンカツソースで食べる以外にも、えびフライの丼ぶりやサンドイッチなども人気です。
「ご当地粉料理」は、『小麦粉料理探求事典』(岡田哲 編/東京堂出版)、『日本の味探求事典』(同)などの書籍、官公庁や地域情報などの各種ホームページ、地域住民の方への聞きこみ、弊社資料などによりまとめました。