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イベントレポート Vol.8
「穀物由来の食物繊維の機能性について学ぶセミナー」開催
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「穀物由来の食物繊維の機能性について学ぶセミナー」(女子栄養大学出版部主催・株式会社日清製粉グループ本社共催)が2023年2月20日(月)、日本橋ホール(東京都中央区)で開催されました。
セミナーは、管理栄養士や栄養士、食の仕事に従事している人、学生などを対象に全粒穀物の栄養に関して学び、日々の仕事や活動に活かしてもらうことを目的に開催。会場参加のほか、オンラインでも同時配信し、約280人が参加しました。
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「穀物由来の食物繊維の機能性について学ぶセミナー」(女子栄養大学出版部主催・株式会社日清製粉グループ本社共催)が2023年2月20日(月)、日本橋ホール(東京都中央区)で開催されました。
セミナーは、管理栄養士や栄養士、食の仕事に従事している人、学生などを対象に全粒穀物の栄養に関して学び、日々の仕事や活動に活かしてもらうことを目的に開催。会場参加のほか、オンラインでも同時配信し、約280人が参加しました。
第一部(前半)「食物繊維の機能性について学ぶ」
第一部の前半は、女子栄養大学の香川靖雄副学長が「食物繊維の機能性について学ぶ」をテーマに、食物繊維の大切さを訴えました。1960年を境に日本人の食物繊維の摂取量は国が推奨する目標量※を下回り、1955年には1人あたり22.5gあった摂取量が、穀類や野菜、豆類の摂取量の大幅な減少に伴い、2015年には14.5gにまで減少していることを説明しました。
※成人(18~64歳)における食物繊維の1日の摂取目標量は男性21g以上、女性18g以上。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より
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また、食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維に大別され、便秘対策のために不溶性と水溶性の食物繊維は「2:1」のバランスで摂ることが理想と言われています。しかし、実際には20〜40代の女性では約「3:1」になっており、水溶性食物繊維が不足していることを指摘。果物、こんにゃく、海藻を多く摂ることをすすめました。
さらに、食物繊維を化学構造の違いから「非澱粉多糖類」「非消化性でんぷん(難消化性でんぷん)」「非消化性オリゴ糖」の3つに分けて示し、特に最近注目されている難消化性でんぷんに言及。難消化性でんぷんは、レジスタントスターチとも呼ばれ、消化酵素で分解されずに大腸まで届き、善玉菌のエサとなって発酵し、増殖をサポートする「発酵性食物繊維」の1つとして注目されていることを説明しました。
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最後に、ハーバード大学が発表した健康的な食事プレートを紹介。主食は全粒穀物、主菜は魚、鶏肉、豆、ナッツなどのたんぱく質、副菜はじゃがいもを除いた野菜、その他色彩の豊かな果物を多く摂取することを推奨しました。
第一部(後半)「穀物由来の食物繊維の機能性について」
後半は、大妻女子大学家政学部の青江誠一郎教授が登壇。「穀物由来の食物繊維の機能性について」をテーマに講演しました。
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日本とコーデックス(食品の国際規格)の食物繊維の定義の違いや食物繊維の新しい分析法を紹介した上で、最近注目されている発酵性食物繊維について説明。発酵性食物繊維は「低分子水溶性食物繊維」「高分子水溶性食物繊維」「不溶性食物繊維」に分類され、オートミールや小麦全粒粉、根菜類、海藻類などに多く含まれますが、その種類によって発酵速度が異なり、腸内で発酵する部位が異なるため、いろいろな種類の発酵性食物繊維を摂ることをすすめました。
今回は、発酵性食物繊維の中でも、不溶性食物繊維の1つである「難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)」について取り上げました。レジスタントスターチは<RS1>から<RS4>の4つに分類され、その中で<RS2>を含む高アミロース小麦の機能性について説明。高アミロース小麦は、食後の血糖値の上昇をゆるやかにすること、腸内の善玉菌を増やすことをデータで示しながら、「全粒粉パンが苦手な人は高アミロース小麦のパンを食べてもいいでしょう」と解説しました。
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小麦全粒粉や小麦ふすまの機能性については、小麦全粒粉パンは食後血糖値の上昇をゆるやかにすること、3カ月間摂取すると内臓脂肪の増加を抑制すること、さらに小麦全粒粉や小麦ふすまに含まれる「小麦由来アラビノキシラン」は腸内環境を改善し、有用物質である短鎖脂肪酸を増やし、腐敗物質を減らすことを研究データを用いながら示しました。オーツ麦や大麦に含まれる「β-グルカン」の機能性についても、大麦群は小麦群と比較して空腹感や予想食事量(今、食事を摂るとするとどのくらい食べられるか)を低下させ、満腹感と満足感を増加させることを示しました。
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これまでは小麦全粒粉や小麦ふすまは、不溶性食物繊維を多く含む素材として注目されてきましたが、新たなエビデンスにより発酵性食物繊維「小麦由来アラビノキシラン」を含むことがわかり、また、大麦やオーツ麦に含まれる「βーグルカン」も発酵性食物繊維であることから、全粒穀物を中心に複数の発酵性食物繊維を摂ることを推奨しました。
講演のあとには会場からの質疑応答にも応じた青江教授。「市販の全粒粉入りパンにどれだけ全粒粉が入っているのか知る方法を教えてほしい」という質問には、「食物繊維の表示を確認すると良い」など、とアドバイスしました。
第二部 全粒粉を使用したレシピ
第二部では、料理研究家で料理教室「サロン・ド・キュイジーヌ」を主宰する荻野恭子先生が、「世界の生活の知恵を生かした全粒粉を使った料理」について動画を交えて紹介しました。
モンゴル風焼うどん(ツィヴァン)
モンゴルの遊牧民は、水道がひかれていない地域で過ごすこともあり、水は貴重。水を使わず、身近な家畜の乳で粉を練り、ゆでずに野菜炒めの上にのせて蒸しあげた料理です。今回は、全粒粉と塩、牛乳、ラム肉(ほかの肉でも可)、野菜を使ったレシピを紹介しました。「シンプルに塩だけで味付けしています。腹持ちがいいレシピで、栄養にも配慮された食事だと思います」(荻野先生)
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韓国風すいとん(スジェビ)
かつおや昆布のだし汁ではなく、煮干しのだし汁が一般的という韓国。現地では朝ごはんや軽食として食べることが多い料理だそうです。今回は肉とみそ、コチュジャンでアレンジしたレシピを紹介しました。「全粒粉でつくると粉の甘味が際立って、とてもおいしくいただけます」(荻野先生)
トルコの練り菓子(ウン・ヘルヴァス)
小麦粉、バター、牛乳、砂糖を加熱しながらよく混ぜ合わせて練る日本の練り切りのようなお菓子。オーブンがない時代から食べられている古いお菓子で、今回は全粒粉を使用。「くるみの代わりにピスタチオやアーモンドなど、お好みのナッツでもアレンジ可能です」(荻野先生)
会場とオンラインで開催された同セミナー。会場はほぼ満員で、会場を訪れた人たちは講師陣の話に熱心に耳を傾けていました。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました。
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女子栄養大学 副学長
香川靖雄
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大妻女子大学 教授
青江誠一郎
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料理研究家
荻野恭子