パンラボ池田浩明が毎回ゲストをお迎えし、お気に入りのパンを “もぐもぐ” しながらパンについて語る座談会。
表の顔はゴスペラーズのメンバー。その一方、地方でしぶとく生き残る「ローカルパン」を探し歩く「ローカルパンハンター」の顔を持つ酒井雄二さんが、「もぐもぐ会議」史上に残る神回となった第1回につづいて再降臨!一堂に会した、名品バゲットたち。手ちぎり大好きな酒井さん、テイスティング命の池田さん、男2人が、ナイフも使わず、豪快に手でちぎって食べ比べる企画。個性もそれぞれのバゲットから、どんな感想が飛びだすか。
北山陽一、黒沢薫、酒井雄二、村上てつや、安岡優からなるヴォーカル・グループ、ゴスペラーズのメンバーとして、1994年12月21日、シングル「Promise」でメジャーデビュー。以降、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、多数のヒット曲を送り出す。他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとして、アジア各国でも作品がリリースされている。
オフィシャルサイト
Gostudio http://www.5studio.net/
GosTV http://www.gospellers.tv/
ヴィロン あふれるフランスらしさ
池田浩明
バゲットって硬くて、一見ちぎれないっぽいんですけど、意外とちぎれるのがおもしろい。(クープ[切り込み]を指し)ここにめくりどころがある。ここからいくとわりとすんなりいきます。
酒井さん
たしかに、きれいに裂ける。いいですね!「ヴィロン」のバゲットって、クリーム色がかってますよね。
池田浩明
フランス産小麦の色ですね。
酒井さん
発酵してできた部屋=気泡の大きなのがいっぱい見えますね。
池田浩明
このぼこぼこがバゲットの特徴なんですけど、「ヴィロン」は特にボコボコしてますね。逆に、食パンだとすごく細かい。
酒井さん
食パンは細かい部屋ですよね。これは大部屋ですね。洞窟のような。
池田浩明
はい。これがあることで火通りが良くなるんですよ。そうすると小麦の味がわーって出てくる。
酒井さん
バゲットを手でちぎって食っているって、なんかワイルドでいいですね。
ブレッドプラントオズ なじみ深さ&本格感
池田浩明
今回は小麦の特徴が異なるバゲットを持ってきています。これは日清製粉の小麦粉で作ったバゲット。持っただけでかなり軽やかですね。
酒井さん
あ、色がちがうなあ。気泡もちょっと小さめ。ほんのり酸味がありますね。あと馴染みのある香りがします。
池田浩明
これはルヴァンリキッドっていって、お店で培養した発酵種を使っているので、酸味やワイルドな香りがあるんです。あと、日清製粉のリスドオルっていう、日本の多くのパン屋さんで使われている小麦粉も使っているので、馴染みのある香りもするんだと思います。
酒井さん
ガチのハード系がくると、日本人ってたぶんちょっと腰が引けちゃうと思うんです。でも、これだと「きっとこういうのが本格なんだろうな」っていう感じが、手軽に味わえますね。
バゲットラビット 蜂蜜の香り?
池田浩明
今度は国産小麦を味わっていただきたいと。これは本州の小麦なんです。
酒井さん
本州って、小麦できるんですか! 細かい点々が見えますね。
池田浩明
よくお気づきですね。これは石臼挽きで、小麦の皮(ふすま)の部分も入っているんです。あと、餅っぽい感じもありますよね。もちもち感とかねっとり感とか。
酒井さん
ちぎれるときに、糸が引くみたいに見えますよね。あと、すごく強い香ばしさがあります。全粒粉というか、胚芽っぽいというか、複雑な香りがしますかね。
池田浩明
玄米みたいな香りですよね。それと、僕これを嗅いだときに、蜂蜜みたいな香りだと思いました。
酒井さん
わかります。蜂蜜のちょっとツンとした感じですね。いやー、バゲット食べ比べ、おもしろいですね。おいしいと感じるゾーンが広がります。
ミカヅキ堂 お米みたいなバゲット
池田浩明
これは「奇跡の小麦」といわれる、北海道のキタノカオリを使っているんです。
酒井さん
道産小麦。うん、おいしいですね。甘みと、…ご飯方向ですかね。
池田浩明
はい、噛んでいると、ごはんに似た香りがしてきますね。
酒井さん
日本人がびっくりしないフランスパン。そういう雰囲気を感じます。
池田浩明
キタノカオリって、すごく作るのがむずかしいんですよ。収穫期に、雨が1.5日来ちゃうと、もうそれでダメになっちゃう。
酒井さん
うそー!
池田浩明
ただ、それでもすごくおいしいので、パン屋さんは「作ってください」ってなるから、生産者の方も一生懸命作ってくれている。
酒井さん
雨1.5日は厳しいなあ。僕、実家が農家なので、すごく切実に感じます。
池田浩明
へー! 何農家なんですか。
酒井さん
梨農家なんです。雨が降りすぎると実が破裂するし、少なすぎても育たないという。
池田浩明
生産者さんは、みなさんご苦労があります。食べるとき、そんなことにも少し思いを馳せたいですね。
酒井さん
僕、子供時代に農家だったので、おやつとかはあんまり自由ではなかったんですけれど、ジャーにあるお米はいくらでも食ってよしっていう状態だったんですよ。なので、それが唾液の異常分泌を鍛えて(笑)。白米だけで「うめえ!」って、糖化力が培われた。お米スタートで、パンは憧れの存在。
パンは「ヤケド食い」が最高!
池田浩明
今、酒井さんの、パンへの情熱の理由がわかった気がします。僕も異常に唾液が多いんですよ(笑)。パンもお米もいっしょですよね。口の中で溶けたときの炭水化物の甘みが好きというか。
酒井さん
人によく「えーっ、パンだけで食べるの?」「口の中の水分全部持っていかれるわ」とか、軽く言う人がいるんですけれど、なんのことか意味がわからないです(笑)。
池田浩明
完全同意です(笑)。だから、パンを食べるとすごくハッピーになれるんでしょうね。
酒井さん
「セントル」というお店に並んで、焼きたてのパンを買って、我慢しきれなくなって、その辺の駐車場にすっと入って、食パンの天井をちぎって開けたんですよ。そしたら湯気がまるでもうポットの蓋開けたみたいに、わーっと出てきて、中をさわったらアツアツ!ってなって、その時のよろこびがすごかった。「袋留めないでおきますねー」っていうやつを、待ちきれずに店を出るなり食べるっていうのが、いちばんハッピー。
池田浩明
僕も、パン屋出ると、血眼で公園探して、すぐ食べます。
酒井さん
これもなんかご飯とのダブりが見えてくるんですよね。炊きたてで食べるっていうか、「アヂャーアヅアヅアヅ! だがうめえ!」(笑)。ヤケド食いとでも言いましょうか(笑)。リスクを取るだけの価値があると僕は思っていますね(笑)。
池田浩明
我を忘れて食べる瞬間っていうのはいいですよね。
音楽家とパン職人
池田浩明
去年の年末に25周年のアルバム『G25 -Beautiful Harmony-』が発売されましたね。5枚組、すごくないですか?
酒井さん
しかも初回は特典も入ってるから実質6枚分です。全シングルなので、頭から通して聴いていくと6時間ぐらいかかるんですよ。本当に、25年分の足跡。それこそ初期の写真とか恥ずかしいんですよ。自分の声も若くて、ちょっと至らなかったりするし、歌い方もまだまだだなあと思いつつ、ただ輝きがあって、本当に一生懸命、ひたすら精一杯やっていて。今こうはやらないし、できないんですよね。
池田浩明
若い頃にしかできなかった純粋さってありますよね。経験を経て出てくる味もありますし。
酒井さん
聴いている方にとっても、「期末試験のときこの曲を聴きながら勉強した」とか、曲と思い出がくっついているはずなので、25年の時間の記憶として、この6時間を聴いてもらったらと思っているんです。
池田浩明
いいですね、その聴き方は。自分の人生とゴスペラーズの歩みとを重ね合わせて。
酒井さん
僕は、ディスク1で「うーっ!」って売れないつらさを思い出し、ディスク2は、「ああああ…」って頭がグルングルンする忙しさが蘇り、ハッと我に返るのが、ディスク3か4のあたり。5はもう「最近だなあ」っていう感じ。そして、どの曲も喉が緊張するんです。キューって釣り上がって。
池田浩明
そうなるんですか!
酒井さん
自分の曲を聴くのは、僕はできれば避けたいぐらいなんですよ。自分が歌っているときと同じ信号が喉へ行ってしまうというか、条件反射でよだれが出るようなもんですよね。
池田浩明
反射的にそうなっちゃうんだ!
酒井さん
ものすごい高いところが来ると、「@$#%&$#」(声にならない声)ってなってます。
池田浩明
プロの極みの世界ってものすごいですね! パン職人の真剣さと通じるところがある。酒井さんがパン屋さんだったら、すごくおいしいでしょうね(笑)。
酒井さん
いやあ、僕はコンサート分ぐらいしか、それこそ3時間ぐらいしか集中できないので(笑)。パン屋さんは朝早くから起きて長時間働いて。すごい、本当に。尊敬しています。
同じバゲットと言えども、使用している小麦粉や職人の作り方によって味の違いが出ることを楽しんでいたお二人。日清製粉のフランスパン用小麦粉リスドオルも多くのパン屋さんに愛されてきた小麦粉の一つ。どこのお店で、どんな小麦粉を使用しているかまでこだわるとかなりツウなパン食系女子になれるはず!