日本最大の規模を誇る製粉工場の電力を“実質100%再エネ化”
オフサイトPPAに込めたサステナビリティへの思い

2023年11月、日清製粉の主力工場である鶴見工場の使用電力が実質100%再生可能エネルギーになった。同工場は日本最大の規模を誇る製粉工場であり、今回の取組みは「2050年までにCO2排出量実質ゼロ」の目標達成への重要な第一歩となる。製粉業界のみならず産業界においても大きなインパクトとなる同施策は、どのように実現したのか。その裏には、サステナビリティに対する日清製粉グループの強い思いと決断があった。

PROFILE

日清製粉株式会社

鶴見工場 工場長

天野 辰哉(左)

1992年入社。2002年に竣工した鶴見工場の最新鋭大型ライン(Gミル)建設、東灘工場の増設ライン建設、同工場次長、知多工場長と長年製粉工場に関する業務に携わる。2016年より日清製粉グループ本社の技術部長となり、本件に携わる。2023年10月より現職。

株式会社日清製粉グループ本社

技術本部 技術部 主査

原口 卓士 (右)

1992年入社。日清製粉グループ本社の生産技術研究所、日清製粉名古屋工場、同知多工場を経て、2015年より現職。今回の太陽光発電のみならず、電気のエキスパートとして特高から弱電まで、各種プロジェクトにおける電気関連領域を幅広く担ってきた。

※ 電気の電圧の高さや種類を指す表現

所属・役職は取材当時

「巨大工場の電力」を
再生可能エネルギー化するインパクト

インタビュー画像

2023年11月から使用電力のすべてを実質再エネに移行した日清製粉鶴見工場。その電力内訳は、オフサイトPPA※1による 太陽光発電と、悪天候時や夜間にそれを補完するトラッキング付非化石証書※2を付与した一般電力となる。

鶴見工場は、日本で消費される小麦粉の約10分の1を生産している。日清製粉にとっても国内電力消費量の約20%を占める巨大工場だ。その実質再エネ化によるCO2削減量は年間27,000トン強にのぼる。世の中にも大きなインパクトとして受け止められ、ニュースリリース発表後には、お得意様をはじめ、取組みに対する問い合わせも複数あった。

今回の取組みの背景には、日清製粉グループが2021年に策定した環境課題中長期目標がある。その中で目標に定めているのが、CO2排出量を2030年までに50%削減(2013年度比)、そして2050年までに実質ゼロにすることだ。鶴見工場 工場長の天野さんは、こうふりかえる。

「以前から省エネやオンサイトPPA※3等の環境施策を進めてきましたが、目標達成には大きな一歩が必要と判断し、幅広く検討する中でオフサイトPPAによる再エネの活用に行き着きました」

では、なぜ鶴見工場だったのか。

「製粉工場として日本最大の規模を誇る当社の基幹工場であり、多くのエネルギーを使用する点、そして製粉工場で使用するエネルギーのうち大半は電力であることから、まずは鶴見工場の電力由来のCO2をターゲットにすることに重要な意味と価値があると考えました」(天野さん)

  • ※1オフサイトPPA:発電事業者が、企業など需要家の敷地外に太陽光発電設備を設置し、一般の電力系統を介して需要家に電気を供給する方法。需要家は、再生可能エネルギーを発電事業者から事前に合意した価格及び期間で購入する形となる。企業がCO2排出量削減に貢献できるエネルギー調達手法として注目されている。
  • ※2トラッキング付非化石証書:非化石証書は、非化石電源により発電された電気が持つ「非化石電源由来であることの価値(環境価値)」を証書化したもので、トラッキングを付けることにより、非化石電源の発電所・電源種別・運転開始日等の情報が付与される。電気と一緒にトラッキング付非化石証書を取得することで、実質再生可能エネルギー化することが可能になる。
  • ※3オンサイトPPA:発電事業者が、企業など需要家の敷地内に太陽光発電設備を発電事業者の費用により設置し、所有・維持管理をした上で、発電された電気を需要家に供給する仕組み。

価値ある環境施策であることを、さまざまな観点から精査

ただ、インパクトの大きな取組みだからこそ、会社として綿密な検討と大きな決断が必要となった。また、対峙するテーマが人類史上類を見ない逼迫した環境問題であり、先が極めて読みづらい点も難しさに輪をかけた。天野さんとともに今回の取組みを担った、技術本部 技術部の原口さんは、こうふりかえる。

「私は長年、電気関連の業務に従事してきたので、その経験や知識が助けになりました。一方で、電気は購入先や料金による品質の違いがないため、これまではいかにコストを減らすかという観点を中心に考えてきました。今回は、そこに『環境価値を高める』という非常に新しい考え方を加える必要があり、検討に苦戦しました」

天野さんも、こう語る。

「環境関連の状況は動きが激しく、現況や新しい仕組みを勉強し、悩みながら進めていきました。とくに苦心したのが、長期契約を決断できる材料を揃えることです。10年後、15年後、20年後に電力調達に関する環境がどう変化するかわからない中で固定価格の長期契約を結ぶには、このスキームが十分に競争力を持っている裏付けが必要で、その点を徹底的に調べ上げました」

そんな中、決断を後押しする大きな要因となったのが、日本独自の事情――つまり、土地の限られる日本において、今後は太陽光発電設備を設置できる適地が減少していくことだった。

「そのため、長期契約によって早い段階から固定価格でPPAの電力を確保できることには、大きな意義があると考えました。また、検討を重ねていった結果、その価格自体も十分に競争力があると判断できたのです。

加えて、この段階で思い切った決断をすることで環境に取り組む当社グループの強い姿勢をしっかり社会に打ち出せる点も、取組みを後押しする材料となりました。もちろん、当社が掲げる目標の達成という点でも、大きな前進となります」(天野さん)

さらに、再生可能エネルギーの「追加性」も重要なポイントとなった。追加性とは「社会全体の再生可能エネルギー施設の総量を増やす効果があること」を指す。最近では、この追加性を重視することが環境先進企業を中心に新たな潮流となりつつある。その点、今回は全て追加性のある新設の太陽光発電設備で構成しており、その点からも価値の大きな取組みであると考えられた。

「あわせて、今回の仕組みが現在の世界的なプロトコルと照らし合わせて最適な手段であるかどうかと、太陽光発電設備の敷設が環境破壊につながらないかどうかも、きちんと精査しました」(天野さん)

他工場にも、それぞれ「最適」な形で
脱炭素の施策を拡大

インタビュー画像

そして、会社として難しい決断が求められた当プロジェクトにおいて、もう一つ強力な推進力となったのが、日清製粉グループ本社のトップの明確な意思表示だった。

「社長が2022年6月の就任時に『これからはESGのE(Environment=環境)をしっかりやっていく』と明言されました。これまでも環境課題に取り組むことは企業として当然の姿勢でしたが、それを明言いただくことで、今回の取組みを進める原動力になったと感じています」(原口さん)

こうして実現した、環境関連の施策では日清製粉グループでも類を見ない規模のビッグプロジェクトとなった。今後の取組みについても、原口さんは「刻一刻と変化する再エネ関連の状況をつかむため、しっかりと情報を収集しながら、それぞれの要件に沿って最適な選択をしていきます」と余念がない。

また、日清製粉グループではオフサイトPPAをはじめとするCO2排出量削減の取組みを、製粉工場はもちろん、それ以外の工場にも順次広げていく予定だ。

「当社グループには、年中無休の工場もあれば、1日24時間フルに稼働する工場もあります。工場の形態によって再エネの最適な導入方法は大きく変わるので、ホールディングスの立場で俯瞰する目を持ちしっかり検討しながら推進していきます。そしてグループの環境目標の達成に向けて積極的に取り組んでいくつもりです」(原口さん)

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