栗は大粒のほうがおいしい。慌てないで、ゆったりした気持ちでつくる。
町中がふんわりとキンモクセイの香りに包まれ、秋の深まりを感じる頃、まるまるとした栗が八百屋さんの店先に並んでいるのを見つけたら、買って帰らずにはいられない。
皆が喜ぶし、食卓に秋の風情を添えられるから、わたしは毎年栗の渋皮煮をつくる。強固な鬼皮は、熱湯でふやかしてからナイフをあてれば、おもしろいようにくるりと剥ける。茹でこぼすたびにアクが抜けてさっぱりしていくその過程は、日々の瑣末な憂いごとも流されていくセルフヒーリングの効果もあって。
それは一般に思われているより、簡単につくることができると思う。
一晩おいてこっくりと甘く煮上がった渋皮煮は、何の洋酒もスパイスも入れなくても、どこか木の肌を思わせる野性的な香りがする。
それは、森の記憶を呼び覚ます、ルヴァン種で発酵させたパンの香りに実によく合う。
しっとりと味わい深いライ麦パンのほのかな酸味、木の実のように香ばしいクラストに合わせることを考えると、この秋の仕事がさらに楽しくなる。
散歩に行くなら小さなナイフを携帯し、スライスしたてのパンにたっぷりのチーズを塗って、仕上げに渋皮煮をのせよう。チーズはマスカルポーネ、あるいは生クリームかミルクで軽くホイップしたクリームチーズを小瓶に入れて。のみものは赤ワインがあれば素敵。
深まる秋には少しだけ大人っぽいお散歩にパンを……ね!
パンとそのまわりの人々を取材、All Aboutで情報発信中。Bread+something good(パンと何かいいもの)をテーマに関連企画のコーディネート、執筆多数。
著書『日々のパン手帖~パンを愉しむsomething good』他