前作から7年ぶりの新作となる第4弾CM「コニャラとごはんの歌」篇について、楽曲を手掛ける矢野顕子さんとのエピソードや、アニメーションの注目ポイントなど詳しく聞いてみました。
Q1.前作から7年ぶりの新作となった第4弾CMの感想を教えてください。
もう7年も経つんですか。今回のCMも、安心して見ることが出来ますよね。一番初めにコニャラでCMをやろうとなった時に、「歌を主役に作ってもらうとしたら、さらには猫だったら矢野さん(矢野顕子)かな?」と思って、それで出来上がったのが2010年の第1弾CMです。“音楽”・・・これは一つ大きいですよね。
Q2.今回の第4弾CMも矢野さんが音楽を手掛けられていますよね。
ひょんなことから矢野さんのメールアドレスを手に入れまして。毎回そうなんですけど、そこから、矢野さんに直メールなんです。「作ってー」と(笑)。それしか言ってないです(笑)。そうすると「出来たー!」と言って2日後にくるんですよ。「聞かせてよ」と言うと、「焦らないでよ~。(頭の中で)出来たけど、やらなきゃいけない事があるんだから~」と言って(笑)。ただ彼女って、やっぱり天才なんですよね。あの歌一つ聞いた途端に時代を超える、気持ちが温かくなる。本当にすごい人です。
Q3.第4弾CMもコニャラの可愛らしい姿が見られますが、アニメーションのポイントは?
今回も近藤勝也くん(演出・作画)にアニメーションをやってもらっています。CMの中でコニャラがぐるっと回るんですけど、回り方に角度がついているんです。手で描いたアニメーションで角度をつけるって実は難しいんですけど、それを彼はやってのけてるから「あらっ!」て思ってしまいました(笑)。日本のアニメーションって、実は立体的じゃないんです。アメリカのアニメーションは立体的で、その立体が動くと言うのが西洋のアニメーションの特徴。ところが日本は平面的なんですよね。だから宮﨑駿が描いているのは、どこかで平面。だから、近藤勝也がまた平面的にやっているのかな?と思ったら、今回ちょっと立体的なんですよね。コンピューターも一切使っていなくて、全部手描きなんです。あれはなかなかやれそうでやれないから「あ、新鮮!」と思いました。そこがポイントですね。
Q4.宮﨑駿監督は、今回のCMをご覧になっていますか?
見せましたよ。うんうんと言って、良いんじゃないと言う感じで。近藤勝也くんは自分のところで働いている人間なので、どういう仕事をするかよく分かっているんですよ。だから良いとか悪いとかではなく、そういう観点で見ているんだと思います。
(インタビュアー:コニャラの生みの親は鈴木さんですよね。)
僕がコニャラを初めて描いた時には、宮さん(宮﨑駿監督)が「鈴木さん、今まで描いた中で一番だよ」と褒めてくれたんです。宮﨑の描くキャラクターの特徴って、全部可愛いやつにしないところ。一か所、憎たらしくするんですけど、それが多分色んな人に支持されるんですよね。ちなみに、コニャラの麦わら帽子を描いてくれたのも、実は宮﨑なんです。こういうの(麦わら帽子)もやった方が良いよって。耳のブチの部分が描いてる途中で右と左が逆になってしまうなんて事もありましたね(笑)。
Q5.コニャラのCMも第4弾になります。面白いものを作り続けられる秘訣はありますか?
面白いものを作る人って、自分のものを作った時にジーンとしないんですよね。終わったら、すぐ次に興味がいくんです。他の人が作ったものも好きですし、僕の想像だと矢野さんもそうなんだけど、宮さんも素晴らしかったら何でも感動する。自分のことにこだわる人ってあまり良い作品作らないですよね(笑)。彼と付き合って一番よく分かったことはそれです。だって“トトロ”ってキャラクターは、ひょんな時に彼(宮﨑駿監督)が作ったんです。それで“ネコバス”と言うのを作って「これイイですね」といったら、「イイでしょ」って(笑)。それで「これ映画にしましょう」とみんなで騒いで映画にする事になったんだけど、宮さんが言い出したのはね、「どうしよう」なんです。「え?どうしたんですか」と言ったら、「だってお話がないもん」と。映画にしようと決めた時に、物語がなかったんです(笑)。(宮﨑駿監督は)良いものになるんだったら誰が作っても良いと思っているから、自分で作る気はなかったんです。普通だったら自分で生み出したら、最初から最後まで全部自分でやってみたいって思いますよね。そういう欲はない人なんです。それが面白い。だから「彼」なんでしょうね。こだわらないんですよ。今の若い人たちに「承認欲求」っていう言葉があるでしょ?みんなに認めてもらいたいなんてのは、宮﨑駿にはなかったんですよ。宮﨑駿が認めてもらいたかった人はただ一人、高畑勲。高畑さんには褒められたかった。他の人には褒められたくなかったんですよね。あの人はそういう人です。
Q6.第4弾CMでは初めて映像が先に出来て、矢野さんが絵に合わせて曲を作ってくださっています。改めて矢野さんとの制作はいかがでしたか?
彼女は本当に才人なんです。たとえば手紙をもらうじゃないですか。その手紙がとても洒落ていて、雑誌のグラビアに字を書いてそれを破って封筒に入れて送ってくれるんです。これは上手いなと思いましたね。人の気持ちをつかまえると言うか、なかなかの人。三鷹の森ジブリ美術館で上映している短編アニメーションでは声を担当してもらったり、映画『ホーホケキョ となりの山田くん』では音楽をやっていただいたりと色々とやっていただきましたが、(コニャラでも)そういう才能を見てみたいんです。やっぱり僕、才能ある人って見てると面白いんですよね。宮﨑もそうなんですけど、才能ある人の仕事ぶりと言うのは面白いんですよ。何が面白いかというと、どこか変なんですよね(笑)。それを見るのが楽しくて(笑)。
(インタビュアー:宮﨑監督もそうなんですね?)
彼は児童書が好きで一年間通してすごい数を読んでるんですけど、「鈴木さん、この本読んでおいて」って言うんですよね。その中で「これやろうよ」って言い出すんですけど、その児童書には一つ特徴があって、彼が弱いのは、タイトルに「庭」が入っている本。「庭」って書いてあると名作なんですよ(笑)。
(インタビュアー:それはどういう事ですか?)
彼の本の読み方って非常に面白くて、“映画づくり”なんです。読んでて、そこにある庭でヒロインやヒーローが出会ったりすると、「その庭はどんな庭なんだろう?」と自分で考えてくるんです。そうすると作品ごとに庭を作っちゃう。作っちゃうと、その庭を映画に使いたくなっちゃうんですよ。これが最大の特徴ですね。面白いのは、自分のつくりあげた「庭」なんです。だから彼にとっては、つまらない本だろうがなんだろうが、刺激を与えてくれたものが全部面白いんです。だから必ずしも自分のオリジナルにこだわる人ではないんですよ。
(インタビュアー:宮﨑監督と長いお付き合いがある鈴木さんだからこその面白いお話ですね。)
宮さんとは出会って、今年で45周年になります。もともと僕はどちらかと言うと、あまり積極的に仕事するタイプではなかったんです。でも宮﨑駿と出会って、彼が働きものでしょ。本当によく働くので、それを見て「なんでこんなに働くんだろう」と思ってたんですけど、やっているうちに気が付くと太い縄で自分が引っ張られるんです。ずっと引きずり回されて(笑)。あの人に出会わなければ、すごく人生が違っていましたよね(笑)。
Q7.今後、コニャラはどうなっていくでしょうか?
実はコニャラで30分くらいの長編なのか中編なのか、少し長いものができたら良いなと思っているんです。昨年(2022年)開園したジブリパークに「映像展示室」(ジブリの大倉庫内のオリヲン座)があるんですけど、そこで上映する映像を吾朗くん(宮﨑吾朗監督)が色々考えていて・・・、何か新作が出来たら良いなと前から言っていたので、思いついたんです。「コニャラで30分くらいで出来ないかな?」って。そしたら吾朗くんも喜んだんですよね。
それをどういう物語にするか、才能ある人間に頼ろうと思っているんです。それで言うと矢野さんに作ってもらいたいなと思ったりするんです。やっぱり彼女は突き抜けてる人なので、彼女がイイ話を作ってくれたら、それをみんなで作ることは十分出来る。なのでお願いして何か出来ないかなと思ってるんです。彼女の力を借りたいですよね。コニャラを育ててくれた親として矢野さんはすごく大きな人。しかも矢野さんは、猫が大好きなんですよね。
ちなみに、うちのカミさんも猫が大好きで。ある日、使っていなかった家の一室のドアを開けたら、猫だらけでびっくりした事があって(笑)。うちにいた4匹の猫の中で、僕は一番可愛がっていた一匹の猫とだけ仲良くなって、うちの娘が野良猫でかわいそうだと名前だけでも豪華にと言う事で「グッチ」と名前をつけまして(笑)。そしたら「グッチ」をいじめる悪い猫がいて、本当に頭にきて怒ってたんですけど、その猫の名前が「ゴロー」と言うんです…(笑)。
話は脱線しましたが、矢野さんはニューヨークでも猫と一緒に暮らしたりしていますし、彼女の自由な発想で何か作れたら良いなと。そんな事が本当に実現したら、面白いですよね(笑)。
Q8.コニャラは誕生してから10年以上が経過していますが、社内(日清製粉グループ)でも変わらず愛され続けています。
コニャラが生まれてもう12年ですね。色んな形で応援していただき、本当にありがたいです。
(インタビュアー:ちなみに、コニャラは20代30代の若い方の認知が高く、「どこで知ったんですか?」と聞くと、「CMで見ました」という回答が多いのです。今回のCMが7年ぶりの新作という事で、しばらくCM放映はしていなかったのですが・・・)
刷り込まれているんですね。とてもありがたいです。それにこういう時代だからこそ、コニャラみたいなものを見るとホッとするんですよね(笑)。そういうものをみんなどこかで求めているんだと思います。
(文責:編集部)