Column男の探求コラム
現代の名工・てんぷら近藤が選ぶ天ぷらに合う小麦粉の条件
12年連続でミシュラン二つ星に輝き、その味を求めて世界各地からお客さんが訪れるという東京・銀座の名店「てんぷら近藤」。駿河台「山の上ホテル」の「てんぷらと和食 山の上」で料理長をつとめたのち、1991年に独立して店を構え、昨年、天ぷら職人として日本で初めて「現代の名工」に選出された、店主の近藤文夫さんに話を伺った。
素材を活かすための粉選び
カラッと軽く、油をほとんど感じない、いくらでも食べることができてしまいそうなてんぷら近藤の天ぷら。今回は、そんな天ぷらのキモとも言える小麦粉へのこだわりについて、近藤さんにお話を伺った。
--天ぷらは、素材の食感を引き立て、素材の香りを伝える、素材そのもののおいしさを引き出す調理法です。余計な水分を外に逃がし、ころもの中で、水蒸気で蒸されることによって、旨味が引き出されます。
なので、天ぷらで使う小麦粉選びにおいて、「軽くて空気をたくさん含むことができる粉」であるということが私の中で一番の条件です。
ちなみに、私は山の上ホテル時代から、日清製粉の「バイオレット」を使っています。「バイオレット」は薄力粉の中でも非常に粉離れが良く、具材にまとわりつかないのでフワッと揚がりやすいのが大きな特徴です。重くてベッタリしたころもでは、素材の食感が活かされません。
また、空気がたくさん通る軽いころもによって、余計な水分が外に逃げ、水蒸気で素材が蒸されることによって、おいしい天ぷらになります。「バイオレット」は、極めて細かい粒子の薄力粉なので、それが可能なんです。
フワッと香りと旨味が広がる天ぷらを作るために、軽くて粒子が細かい「バイオレット」を使用しているとのこと。その他の条件について、さらに詳しくお話を伺った。
もう一つのこだわりとして、私は「見た目が美しい」というものをいつも心がけています。見た目が美しくなければ、そもそも美味しそうではないですよね。
では、見た目が美しいとはどういうことか。それは、「素材の色がしっかり鮮やかに出る」ということです。私が「バイオレット」を使っているもう一つの理由になりますが、「バイレット」は他の小麦粉よりも圧倒的に白いです。透けるような白さが、素材独自の色を最大限に引き出し、見た目にも美味しい天ぷらを可能にします。
かつて、私が修行を始めた頃の日本の昔の天ぷらは、茶色がかった厚手の衣が付いたものが多く、見るからに体に悪そうで、あまり美味しそうではなかった。また、素人かプロかあまり見分けがつくものでもなかったですね。
私はもともと絵画なども好きなので、見た目が美しい料理を提供したい。そういった思いがあり、20代にして旧来の天ぷらの考え方を変えるべく、魚介類が中心であったかつての天ぷらから、薄ごろもで素材本来の旨味と色味を引き出す、野菜を揚げる天ぷらへシフトしていったんです。
美味しい天ぷらのための小麦粉の条件。キメが細かく軽い粉であること、色が白く、透き通るように素材の色味を引き出せることが重要であるということがわかった。
素材ひとつひとつの特性を見極める
小麦粉選びももちろんそうですが、何度も申し上げているように、天ぷらで一番大切なのは、素材の美味しさを引き立てることです。
素材の美味しさ、つまり、素材の特性を一瞬で見極めることが私たち料理人には必要であり、それが職人の技です。
例えば、「打ち粉」ひとつにしても " 水分量 " や " 形状 " など素材ひとつひとつの異なる特性を理解した上で、素材の良さを最大限に引き出す施しが必要です。
天ぷらを揚げる際に出てくる素材の水分を、粉がうまく吸って外に出してあげる。水分で中がぐちゃぐちゃになってしまうと、素材の味が殺されて旨味が無くなってしまいます。
余計な水分をまず「打ち粉」をして一度吸ってあげる。そうすることで水分量が調整され、旨味が凝縮された天ぷらになるんです。そのためには素材の特性を理解しなくてはなりません。
例えば、水分量が多い食材の場合には、基本的に打ち粉をした方が良い。また、形状で言うと、アスパラや玉ねぎなど表面がツルッとしている食材は打ち粉をした方が良いというのもそうです。
一方で、たらの芽などの山菜は表面の細かい部分に粉が入り、食べた時に粉が口の中に残ってしまい、マイナスになってしまいます。
打ち粉をした場合にはしっかりと振るって余計な粉を落としてやることも美味しいてんぷらを作るときのコツですね。
もちろん小麦粉自体も重要ですが、あくまで天ぷらの目的は素材の良さを引き出すということなので、粉の選び方にしても、こうした打ち粉にしても、素材の特性を自分でよく考えて、素材をたくさん触って、試行錯誤を繰り返していただくのがおいしい天ぷらを作る一番の近道になると私は考えています。
素材を活かすための料理、天ぷら。料理男子の皆様も素材と対話し、素材の特性を自ら考えて、究極の天ぷらに挑戦してほしい。
『てんぷら 近藤』
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