Column男の探求コラム
粉もんと漬けもん -肉まんには、古漬けを。編-
こんにちは。漬物男子の田中友規と申します。
個性の強い粉もんを引き立てる、名脇役の漬けもん。
この連載では、漬物プロダクトを自分で作ってしまうほどの漬物好きの僕が、めくるめく漬けもんの美味しい世界を紹介する。
連載第二回目は、ついつい食べ切れなかった「古漬け」の話。
乳酸発酵が進み、独特の酸味が食欲をそそる冷蔵庫の奥底に眠る宝物。
漬物は、塩をしっかりと効かせて、重石で野菜の水分を十分に抜いた状態であれば1〜2ヶ月は美味しく食べられる。ただ問題はその後だ。
つい先日、我が家の冷蔵庫から8ヶ月前のきゅうりの醤油漬が発掘された。
さすがにこれは・・・と思ったものの、興味本位で一口齧る。
するとどうだ。深みのある醤油に酸味が加わり、香りそのものがご馳走。
食感は少しも崩れることもなくカリッカリのまま、濃厚な塩味が口の中で存在感を放っていた。
「塩分の摂りすぎは体に悪い」と思った諸君、その指摘はあまりに的外れだ。
ここまで深く漬けた漬物は、そのまま食べるのでは芸がない。
古漬けは、ひとつの調味料として考えていただきたいのだ。
今日は古漬けを使った、肉まんをご紹介しよう。
中国では酸菜肉包といって、高菜の古漬けを包んだ肉まんが人気なのだが家庭でも簡単に作ることができる。
まずは豚バラ肉を包丁で叩きミンチ状にして、みじん切りにしたネギ、玉ねぎと合わせる。
おろし生姜、醤油、砂糖、ごま油を加えて、そこに古漬けだ。
古漬けにしっかりと醤油が染み込んでいるため、餡の味付けはシンプルに。
市販品の均一な味ではなく、餡を噛み締めた時に感じる、味のばらつきがまた面白いのだ。
そしてなにより大事なのが、皮である。
少し砂糖を多めにして味付けすることで、酸味、甘味、塩味が一体化し抜群に美味しくなる。
生地には、小麦粉、砂糖、塩、ベーキングパウダー、酢、ラードを加えぬるま湯で徐々に混ぜ合わせていく。
よく練りこんで40分程、温かい場所で発酵させる。
ふっくらと発酵した生地を1個分に切り分けて、丸く押し伸ばし古漬け入りの餡を包み込んでいく。
少し小ぶりくらいの大きさが良い。
15分ほど蒸し器に入れておけば完成だ。
粗みじん切りにした豚バラの脂がじんわりと溶け出し、甘みのある生地に染み込んでいる。
一切の旨味を逃さない、素晴らしい料理法だ。
いっそ一口で食べてしまいたい気持ちを抑えつつ
半分に割り、餡と生地のバランスの良い部分をねらってガブリ。
椎茸と豚肉の濃厚な旨味の洪水の中、きゅうりの酸味が自らの仕事をしっかりと担っている。
ふんわりとした皮、肉汁滴る餡、カリカリした漬物。
この味を体験してしまうと、もう古漬けなしの肉まんには戻れなくなってしまう。
脇役というには、その存在は不可欠で
鯖寿しにおけるガリ、または鰻における実山椒か。
この味を知ってからというもの
冷蔵庫からいつも古漬けを見つけるたびに、
ニヤリと笑みがこぼれてしまうのであった。
きゅうりの古漬け レシピ
きゅうり 1本
塩 野菜の量の3%
醤油 浸る程度
1.きゅうりを縦に切り、タネ部分をスプーンでこそぎとる。
2.塩を振り、きゅうりから水分を抜く。
3.きゅうりを絞ってから、浸る程度の醤油に漬け込む。
田中友規さん
東京都出身/京都府在住
真夏のシンガポールをこよなく愛する料理研究家でありデザイナー。
保存食に魅了され、漬物専用ポットPicklestoneを自ら開発してしまった「漬物男子」で世界中のお漬物を食べ歩きながら、日々料理とのペアリングを研究中。
Picklestone
https://www.excite.co.jp/news/article/Japaaan_68996/?p=2