Column男の探求コラム
伏木暢顕さんに教わる、蕎麦に必須の出汁テクニック
知れば知るほど面白い、和出汁の基礎知識
「昆布と鰹節。和食が世界遺産になったのも、この稀有な2つの食材で作る出汁があったからこそでしょう」。そう語るのは、発酵や醸造の伝承人として、和食の文化を海外にも発信している伏木暢顕氏。出汁へのこだわりもなみなみならぬものがある。
「鰹を燻製して乾燥させカビ付けを行う鰹節の製法は、世界にも類を見ません。カビ付けを繰り返した本枯れ節は完成までに半年以上もかかります。荒節に比べると高価ですが、かかる手間暇を考えればそれも納得ですね。味わいも断然枯れ節が上です。麹の作用により、タンパク質が旨味成分に分解されているので、深い旨味があります」
美味い出汁のためには水にもこだわるべきだという。「昆布出汁は軟水でないと十分に旨味が出ません。関西は軟水、関東は硬水なので関東では昆布出汁が出にくく、鰹の風味に合う濃い醤油味の出汁になったといわれます」。煮干しが関西より関東でよく使われるのも、水との関係が深いといえるだろう。
「煮干しは臭みがあると敬遠する人もいますが、おいしい煮干し出汁に必要なのは"辛抱"です。時間をかけて丁寧に出汁を取れば驚くほど洗練された味わいになります」。出汁の材料を吟味するだけではまだ足りない。手間をかけてこそ、極上の出汁が手に入るのである。
美味いだしの取り方講座
左から一番だし、二番だし、蕎麦にぴったりの濃厚だし。求める味の方向性で使い分けると良いだろう。
LESSSON1 一番出汁
出汁の花形選手・一番出汁。昆布を長時間かけて加熱し極限まで甘みを引き出そう。力をかけない濾し方や、常温でじっくり冷ますのもポイントだ。使う分だけ小鍋で加熱し、5~10分ほど"追い利尻昆布" するとより香りのいい出汁に。木の芽などを加えさっと加熱してから取り出して、香りを付けても粋。
作り方
1
鍋に水1ℓ と利尻昆布20gを入れて一晩置く。昆布はじっくり煮出すため、切れ目は入れなくていい。
2
中火にかけて加熱する。60℃まで温度が上がったらごく弱火にし、1~2時間加熱する。
3
じっくり昆布を加熱して、甘みが出て水臭さを感じなくなったら、昆布を引き上げる。
4
中火に強めて、80℃まで加熱する。80℃になったら火を止める。冷凍保存した鰹節の場合は83℃に。
5
水1ℓに対して15~20gの鰹節を空気を含ませるように加える。触らず自然に沈ませる。鰹節は直前まで袋から出さないこと。
6
取り出した昆布を鰹節の上から鍋に戻す。こうすることでグルタミン酸が極限まで引き出される。
7
フタをして蒸らす。抽出時間は鰹節を加えてから1~3分。味をみながら調整を。
8
出汁用濾し布を敷いたザルで7を濾す。濾し布の代わりにクッキングペーパーを使ってもいい。
9
ボウルに金網を載せてザルを置くと自然にドリップできる。決して絞らないこと。常温で冷ます。
LESSSON2 二番出汁
せっかく極上の昆布と鰹節を使うのだから、二番出汁までしっかりと活用を。一番出汁を引いた後の昆布と鰹節を、長時間かけて抽出することで、濃厚な旨味が引き出される。香りが足りない分、最後に"追い利尻昆布" をするのがポイント。液色は少し濁るので、醤油や味噌を使った料理向き。
作り方
1
鍋に一番出汁に使った昆布と鰹節、水1ℓ を加えて中火にかけ、70~80℃まで加熱する。
2
弱火にし、3 ~ 4 時間加熱する。水が減ってきたら適宜足して良い。
3
アクが出てくるので取りながら加熱する。細かいアクは取らなくても大丈夫。
4
火を止めて温度を60℃に落とし、利尻昆布10gを加えて15分置く。これで風味を補う。
5
一番出汁と同じように、濾し布かクッキングペーパーを敷いたザルで優しく濾す。
LESSSON3 濃厚出汁
一番出汁の応用として、ぜひ挑戦したいのがこの出汁だ。ここでは鰯節や鯖節を足して、より複雑で濃厚な魚介の旨味を引き出そう。強いコクがあるので、蕎麦やうどんにも合う。味付けは定番の薄口醤油とみりんでももちろん美味しいが、シンプルに塩のみで味わうのもオツ。
作り方
1
水1.5リットルに対し利尻昆布30gを使い、一番出汁と同様の手順で昆布出汁を取る。その後、中火で加熱して80℃まで温度を上げる。
2
火を止めて、鰹節の薄削り30g、鰯節8gを加える。フタをして1~3分蒸らして濾す。
教えてくれたのはこの人!
醸造料理人
伏木暢顕さん
醸造料理人であり、日本の発酵食文化伝承人。発酵教室の講師としても活躍し、発酵食文化を国内外に発信している。現在の「発酵食」や「麹」人気の立役者の一人。